高瀬彼方 ディバイデッド・フロント 1 隔離戦区の空の下

おススメ度 9

角川文庫 角川スニーカー文庫 2003年06月

あらすじ

人類が、突如として現れた異形の生物、憑魔により生活圏を脅かされてから二十年以上が経った。
際限なくあふれてくる憑魔に一定の法則を見出した人類は、ある出現場所を保持する事で他への発生を押さえる事に何とか成功する。
土岐英次はそのうちの一つ、日本の元首都東京や周りの県一体を隔離した、「北東関東隔離戦区」へと配属された。
上官である生駒敬吾隊長以下、楢崎一流、羽生良輔、筒井彩、宮沢香奈そして土岐英次の6人で小隊を組む。
しかし、ほとんどが十代で、宮沢香奈にいたっては14歳という若さであった。
何故それほど若い少年少女たちが自衛隊に配属されるかと言う理由は、憑魔が体内に出現する強制憑魔という状態に陥っていたからである。
体の一部に憑魔に寄生された者は、すべてどこかの隔離戦区への配属が決められていた。
寄生されたかわりに、男なら雌の憑魔、女なら雄の憑魔の気配を感じ取る事ができ、「活性化」の状態になると、寄生された場所によりその力で常以上の力を発揮する事ができる。そのため、男女常に一組での行動が命じられている。

決して戦闘向きでない宮沢や、体力的に劣る羽生を残し、生駒たちは活性化が示した地域を調査し始めた。
しかし敵は半端な数ではなかった。
圧倒的な数の敵に追い込まれる生駒小隊、その中で宮沢が敵に攫われてしまった。
宮沢は殺されるだけならまだしも、繁殖のために攫われていた。
何とか助けに入った土岐だが、宮沢は隔離戦区での生活に絶望し、自殺を図ろうとするが、そんな宮沢を追いかけてきたのは、倒したはずの憑魔に寄生した、共生憑魔だった。

感想

何気なく本屋で見て、スニーカーにしては珍しいジャンルだなと思い、ぱらぱらとめくると面白そうだったので、そのままレジへ。
何気なく買ったこの小説がこんなに面白いとは。
今でも落ち込んだときに読む本のリストに入っています。
ちなみに落ち込んだときに読む本、それはこの「ディバイデッド・フロント」と「やさしい竜の殺し方」です。どちらもスニーカーです。
心情的に励まされたいときはこちらを読みます。

世界観は重く、その中でひたすら戦闘を続けなければならない主人公達。
決して好きで自衛隊に入ったわけではなく、憑魔に寄生されたから否応なく放り込まれてしまいます。
そこで待っている過酷な訓練、そして死と隣り合わせの実戦。
この小説は、土岐や宮沢他の目線からの一人称で書かれています。
なので、その一人ひとりの心情がひしひしと伝わってきて、途中泣いた事もありました。
それぞれ個性がしっかりしていて、主人公らしい性格の土岐。
そして自分は駄目だと悩む少女宮沢。他にも生駒たちの視点での話もとても上手く、どきどきして読める作品です。
私は結構後ろ向きな性格なので、宮沢におもいっきり感情移入してしまいました。
土岐が好きだけど言えない。戦いが怖い。
それでも最後に勇気を振り絞る。
もう夢中で読みました。

個人的には筒井と羽生が好きなのですが。

そして寄生されたからという、理不尽ともいえる理由で戦っていく共生憑魔された人々。
その壮大な世界観、それなのに視点はあくまでも主人公達からの目線で、これがさらにリアル感を出しています。
過酷な状況であるのに、その過酷という重いメージが良い意味で主人公達にはありません。
もちろん、悩み、思いは色々ありますが、ある種すがすがしい気持ちで読める小説だと思います。

高瀬さんの作品では大体において自分を弱いと自覚する人たちが出てきます。
「女王様の赤い翼」のフーバー君はともかく、「天魔の羅刹兵」の小平太、「カラミティナイト」の沢村智美、「ディバイデッド・フロント」の宮沢香奈。
弱い=暗いと思わず連想してしまいがちですが、共感できる弱さなのです。
高瀬さんはこの人物を書くのがものすごく上手いと思います。
小説が上手い面白い事と売れるという事は、別なんだとつくづく思う作家さんです。

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