高瀬彼方 天魔の羅刹兵 蒼月譚

おススメ度 9

幻冬舎 幻狼fantasia novels 2008年08月

あらすじ

種子島式・羅刹兵。
種子島に漂着したポルトガルの宣教師達により伝えられた、人と同じように二本の腕を持ち、五本の指で物を持つ事が出来る巨大な人工の鬼。
「種子島」と呼称されることもあるが、人々はその威容から「羅刹兵」と呼ぶようになる。
しかしこの羅刹兵は操縦が非常に困難であり、安定性を欠く乗り物で、更に主動力部の「鬼釜」と呼ばれる蒸気動力炉は非常に高価な上、燃料すら不足しており、貨物船の積み下ろしや作業用に使われるのが主であった。

だが、長篠の戦において、織田軍は二体の羅刹兵を投入した。
名高い武田軍はその羅刹兵の前に惨敗し、その中に味方を逃すため踏みとどまる馬場美濃信春の元で戦う小心者の穴山小平太の姿があった。
三時間も戦い続けた信春の前に、柴田勝家が操る羅刹兵「烈震」そして明智光秀が操る「蒼月」が迫る。
信春は討ち死に、そして傷を負い動けない小平太に金棒を振り下ろす烈震、しかし小平太の叫びに蒼月が反応した。

羅刹兵には「荒魂」という特殊装置が搭載されており、それが操者の意志で羅刹兵の動きを制御しているのだが、これに反応する人間は限られており、織田軍でもありとあらゆる人間が試されたが、反応を示したのは柴田勝家と明智光秀の二人だけであった。

荒魂が反応を示し、羅刹兵を操れる可能性を持った小平太を光秀は捕らえる。
そして新たな羅刹兵「狗神」の操者となった小平太は、光秀と共に戦場を駆ける。

感想

復刻版です。旧版も持っているのですが、どうしても手直ししている新装版が欲しくて買ってしまいました。
どちらかと言うと「女王様の紅い翼」シリーズのほうが好きだったのですが、読み返してみてなるほど、友達の評価が高かったのはこっちだったのですが、納得。やはり天魔の羅刹兵も面白い。
作者がHPで書いてあるとおり、主人公の年齢が途中で変わってます、本当は14歳だそうです。
ですが、そんな事は些細な間違いです。「天魔の羅刹兵」を読むには何の障害にもなりません。

挿絵も変更しているのですが、一番びっくりしたのは明智光秀。旧版では月代があり普通のおじさん風なのに、新装版は長髪美形。一瞬信長かと思いました。
主人公も旧版はどうにも百姓ッぽさが抜けきらない顔で、美少年という設定をつい忘れてしまっていたのですが、それが改善されてます。個人的には前の顔も結構好きだったのですけどね。
そして何より羅刹兵。狗神の狗っぽさがなくなっています。

高瀬さんの作品はどれも面白いです。文章が上手い、とにかく先を読ませる力があります。
もっと売れて良い作家さんだと思うのですが、いまいちマイナーな方で残念です。
この作品も羅刹兵が鉄砲の変わりに伝えられたというのが、さも事実のように書かれ、小心者の小平太が羅刹兵を駆り戦うときの葛藤。そして歴史的事実、どれも上手くて面白い。とにかくさんは登場人物の内面を書くのが上手いのです。

羅刹兵は聖刻の操兵のような感じでしょうか。そこに自分の意志を伝達できる「荒魂」が搭載されているので、操兵より自分の意志で動かす事が出来ます。(聖刻を知らない人、すみません。他に近いものが思い当りませんでした)
ですが、整備が大変なため、下手な動かし方をすると整備関係の方から悲鳴が飛びます。
主人公は主人公で安全な操縦席で、民間人を惨殺する事に抵抗を覚え苦悩します。
そのストーリーの端々にあるちょっとしたギャップがとても面白い。ちょい役にも性格づけの上手さがにじみ出ています。

旧版はおそらく古本でしか手に入らないので、是非一度復刻版をお読みください。年代問わず面白いと思います。

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