タニス・リー 闇の公子

おススメ度 9

早川書房 ハヤカワ文庫 2008年09月

あらすじ

世界が平らだった頃、地底では妖魔の都ドルーヒム・ヴァナーシュタが栄えていた。

闇の公子の一人である美貌の妖魔の王アズュラーン、彼は時折人界に赴き、気の向くまま人々を弄んでいた。

「地底の光」
第一部
アズュラーンは死に瀕した母親が産み落としたみどりごを見つける。
完璧にして類まれな美貌を持つその子に興味を覚え、ドルーヒム・ヴァナーシュタへ連れ帰り、息子として、弟として、恋人としてシヴェシュを愛した。

ある時、アズュラーンと共に人界に下りたその子供シヴェシュは、妖魔が弱点とする太陽に心を動かされる。
次第に人間の世界に引かれていくシヴェシュに、アズュラーンは花より生まれたフェラジンを妻に娶らせた。
しかしそれでも太陽を忘れられぬシヴェシュ、彼はアズュラーンの自分への愛を過信し、その袂を分かつ事を決めた。

第二部
ドルーヒム・ヴァナーシュタにて金属細工を得意とする、醜い容姿を持つドリン。
そのドリンの一人はフェラジンより流れ落ちた涙で、七粒の宝石を嵌めた首飾りを作った。しかし、その首飾りを別のドリンに盗まれ、その首飾りを捧げるつもりだったアズュラーンの前で醜態を演じてしまう。

アズュラーンはその贈り物を退け、人間の世へと放った。

地底での品であった首飾りは、地上の世界ではすべての生き物を魅了する誘惑の首飾りとなり、その首飾りを巡り、幾度も血が流れた。
そして最後にその首飾りを手に取ったのは盲目の詩人カジールだった。盲目であるがゆえに首飾りに魅了されず、独特の力を持つが故に、その首飾りの宝石がフェランジの涙だと知ったカジール。

フェランジに恋をしたカジールはアズュラーンを探すため。妖魔の都を探す旅に出る。

「策士達」
第一部
十六の国を従える王ゾラシャード。その巨大な力は、アズュラーンが魔法の護符を奪ったことにより消えうせ、諸国の反乱を招き、ゾラシャードの一族は末の娘を残し処刑された。

逃亡の途中で負った傷により、醜い顔と曲がった手を持つ少女に成長した末娘のゾラーヤス。
幸福だった育ての親との生活は、彼の死をもって終わり、助けようとした男に襲われたことでゾラーヤスは魔女となった。

十六の国を従える女王となったゾラーヤス、自分からすべてを奪っていった者達に復讐を果たし、更にアズュラーンにも狙いを定める。

第二部
アズュラーンとの取引により絶世の美貌を手に入れたゾラーヤスはある兄弟が持つダイヤモンドに目をつけた。
その美貌により弟を篭絡し、半分のダイヤモンドを手に入れたが、兄のミラーシュは警戒を解かずゾラーヤスとの接触を避けていたが、とうとう弟の頼みを断りきれず、ダイヤモンドを渡してしまう。

しかしゾラーヤスが再び弟を省みる事はなく、失意のうちに弟は死を遂げてしまう。
そしてミラーシュはある語り部の話を元に、ゾラーヤスを罠にかける。

「世界の罠」
第一部
あまりの美しさに“美しき蜜”と呼ばれたビスネ。しかし彼女はアズュラーンを3度も拒んでしまう。
愛する人との婚礼の夜。彼女が目を開けると、そこには夫の代わりに怪物が横たわっていた。

夫を失い、形見の子を宿したまま絶望に嘆くビスネはアズュラーンを呪った。

生まれてくるはずの女児の魂は二つに分かたれた。女である方はそのままビスネの子として。
男の方はある夫婦の元へと生を受けた。

やがて美しい少女として育ったシザエル。しかし少女は物を言わず、物を聞かぬ、受身と静止、あいまいと不確実からなる陰の部分のみを引き継いでいた。

貴公子とも見紛う美貌を持つ少年に成長したドリザエム。しかし少年は気が荒く無鉄砲で、すさまじい力を持っていた。活動と変化、激しさと揺るぎなさからなる陽の部分のみを引き継いでいた。

しかしドリザエムはある詩人の前に涙を流す。その歌は分かたれた半身、シザエルの歌であった。

第二部
魔法使いカスチャックはある怪物を見つける。その怪物が人間であった事を見抜き、元の姿に戻す。
記憶の不鮮明な男はゲバと名づけられ、カスチャックの元で魔法を学びながら暮らし始める。

しかしゲバはすべてを思い出す。過去、名前、そしてもうすでにこの世を去っている恋人、ビスネの事を。

ケバの憎悪は世界を彷徨った。憎悪が憎悪を呼び世界は死へと向かい始める。
アズュラーンがしばし人界から目を離していた時であった。

感想

長い内容説明になってしまいました。もっとまとめられればいいのですが、つい長く書きたくなるほど面白かったのです。
ネットなどで評判が良かったので、ずっと探していたのですが、如何せん20年以上前の本で、中々手に入りませんでした。
しかし復刻されると聞き、即買いに行きました。
ネットを信じてよかった。読んでよかった。

アズュラーンがとにかくかっこいい。彼がメインの物語は最初の地底の光の第一部だけですが、要所要所で出てくるだけでも存在感があり、それだけでアズュラーンのかっこよさが伝わります。
強く美しく、そして気まぐれに人界に手を出す。この絶妙な性格のバランスを上手く伝える事は出来ないので、是非読んで頂きたいです。
訳も読みやすく、少々昔風ですが一気に読めました、きれいな文章です。

地底の光の第一部は、何と言うか耽美的ですね。その耽美さにクラクラきます。

個人的にアズュラーンの次にカジールが好きです、その次がミラーシュです。
とにかく美形な方々が男女問わず、たくさん登場します。
第一部はともかく、男性にも読んでいただける内容ではないかと思います。

とにかく雰囲気がいいです。世界観はファンタジーなのですが、名前のせいか少し神話を連想します。

そして最後、物語の繋がりがとてもうまく、本当に面白かったです。

タニス・リー 小説一覧へ

作者一覧へ

タイトルとURLをコピーしました