早川書房 ハヤカワ文庫 2008年06月
あらすじ
互いの立場のため、少しずつバージルとすれ違うセロンは家名のため結婚を決意するが、それがさらに二人の溝を深める。
公開討論が近づく中、バージルは仕事にのめりこんでいき、そして偶然手に入れた「王の魔術師の書」の呪文を口にする。
公開討論の日、スパイを失った後もバージルやセロンを疑うニコラス・ゲーイングはその討論会に姿を見せる。
感想
面白かった。話は堅く、読み込まないと難しいのですが、だんだんとほころび始めるバージルとセロンの関係、そのあたりのバージルの普通の人っぽさがたまらなく面白い。
バージルはどちらかと言うと丁寧な話し方で、講師と言う聖職のイメージから聖人をイメージしてしまうのですが、セロンが絡むときの俗人っぽさのギャップがすごく良い。
そして「王の魔術師の書」を手にし、セロンの結婚を聞いてからの変わりようと、常識の間で揺れ動いている様、それが少々倒錯気味なイメージを持たせます。
題名の「王と最後の魔術師」、この意味が後半にぐっと来ます、そこからは怒涛の勢いで読みました。
最後まで大学が舞台のメインで、壮大な陰謀が渦巻くことも血が飛び交うような戦いもないのですが、しっかりとした時代の歴史の設定があり、難しいのですがそれが読み応えがある。
そこに入り込んできた貴族の立身出世のための欲望。そのわずかな穴が大学と言う小さな舞台では大きな穴となっていきます。
壮大なファンタジーに慣れた方も、時にはこんな小規模の話もいいのではないかと思います。上下ともに分厚さを感じさせない、夢中で読ませてくれる小説でした。
ところでいつもこういう小説を読む時に思うのですが、何故こうも同性に目が向くのでしょうか?特に閉鎖された学校とか。周りもそれを特別な事と認識せずに流していますが、それは日本と共にお約束なのでしょうか、何とも不思議です。