エレン・カシュナー 剣の名誉

私のおすすめ度 8

早川書房 ハヤカワ文庫 2008年08月

あらすじ

狂公爵といわれるトレモンティーヌ公爵の姪キャザリン・タルバートは、公爵から剣客になるよう屋敷へ招かれた。
公爵が勝手に売り払う土地の問題で生活に困っていたタルバート家の事もあり、キャザリンは公爵の下へと行く事を決意する。

すべてのドレスを処分され、男の格好をし、剣の稽古を続けるキャザリン。
公爵は自分の姪に興味があるのかどうかすらも分からない。

何故こんな事をしなければならないのか疑問を抱くキャザリンだが、ある時叔父の知り合いの剣客と出会う。
殆ど物が見えないその剣客から、伯父がキャザリンに剣を習わすのは、意に染まぬ結婚を強いられた妹が、剣を使えたら無理やり結婚させられる事はなかったと思っていたからだと聞く。
そんな伯父の事がわかる剣客に、その正体が気にかかるキャザリン。ただ分かるのは彼は無論、伯父すら他のどの愛人よりも互いを愛しているという事だった。

彼の元でも剣の修行を続けたキャサリンに、伯父に捨てられたアレクインが公爵に挑戦をたたきつけたてきた。
キャザリンはその初めての決闘で勝利を収める。

キャザリンの友達であるアルテミシアは、三日月法務官のフェリス卿と婚約していたが、結婚前に陵辱され名誉の回復を両親に求めるが、両親は彼女を諌めるばかりでアルテミシアは悲観にくれる。
そんな彼女にキャサリンはフェリス卿に決闘を申し込む事を決意するが、フェリス卿はさらりとかわしてしまう。
公爵の知るところとなったその件は、公爵の助言により、キャザリンは逃げる事のできないゴッドウィン家のパーティーで再度決闘を申し込む。

再び勝利を手にするキャザリンだが、公爵と浅からぬ因縁のあるフェリス卿は公爵にキャザリンとの結婚を申し込む。

公爵はキャザリンのため、その手を汚した。
そして公爵を迎えに来たのはあの剣客、リチャード・セント・ヴァイヤーだった。

公爵が去った後、残された手紙には次の公爵が指名されていた。

感想

「剣の輪舞」の18年後、「王と最後の魔術師」の42年前ですね。
「王と最後の魔術師」にもキャザリンは出てきています。その彼女が女ながら、剣を手にした経緯が書かれています。

「王と最後の魔術師」では殆ど名前しか出てこなかったアレク(公爵)とリチャードもしっかり出てきます。
やはりこのリチャードの丁寧な言葉遣いが好きです。最後にアレクを訪ねてきたリチャード、その瞬間本編そっちのけで剣の輪舞に思いを馳せてしまいました。

そして狂公爵と呼ばれるアレク、少々屈折していますが、妹に対する思いなど芯の部分での人間らしさが感じられ、キャザリンを迎えに来た妹ジャニーンとの言い争いも、長年たまっていた思いを喚き合う、そんな姿が狂公爵ではなくただの兄のように見え面白かったです。

キャザリンも最初はドレスを着る事も許されず、男の格好をして剣を学ぶ生活に違和感を覚えますが、女でいたら出来なかった経験。そしてリチャードとの出会いで変わっていきます。
今までは男性の同性愛が軸にあったのですが、剣の名誉は少女の葛藤が軸になります。別に彼女は同性愛に走りません、走りかけはしましたが。公爵が男とも女とも付き合っていたら、少しは感覚が歪みますね。

全体的な展開は剣の輪舞に近いです。若い頃一癖も二癖もあったアレク、大人になりそれに拍車がかかっていますが、キャザリンはそれに飲み込まれる事なく存在を主張しています。
少女が主人公と言う事もあり、他作品よりは万人向けでしょうか。でもどれもおすすめです。

エレン・カシュナー 小説一覧へ

作者一覧へ

タイトルとURLをコピーしました