早川書房 ハヤカワ文庫 2008年06月
あらすじ
歴史学者バージル・セント・クラウドは、トレモンティーヌ公爵家の跡継ぎセロン・キャンピオンと出会う。バージルはセロンに口説き落とされ、互いに惹かれ合っていく。
母親も優秀な医者であるバージルに、トレモンティーヌ家という公爵の名の影響を心配する同僚達は、バージルにロジャー・クラブとの公開論戦を提案する。
一方、ニコラス・ゲーリング卿は蛇法務官のアーレン卿より、大学に王政復古を願う王党派が大学にいるか探りを入れていた。
スパイとなる人物を探す中、バージルの弟子の一人ヘンリー・フレモントに目をつける。
感想
「剣の輪舞」の60年後の話です。
前作でも剣士と学生の男性同士の恋愛話でしたが、今回も同じで学者と学生の恋愛関係が出てきます。
「剣の輪舞」に比べそれなりの描写があり、前作より恋愛要素が強いです。前作は読み終わった後の感じが「遠山の金さん」を連想させたのですが、その点では今作は男性には読みにくいかもしれません。
ただ話は堅く、どっしりとこの世界の歴史が述べられています。
バージルが淡々と大学の仕事をする中、貴族達の策謀が大学へと向けられます。
そのあたりがとても面白く、男性同士の恋愛だろうが、描写があろうが平気だと言う方は男性でも面白いと思われるのではないでしょうか。
ファンタジーの堅苦しいその世界での過去の歴史や人物が出てくるなど、剣も魔法もない話ですが、こういう話の硬さは大好きです。
前作の「剣の輪舞」は男性が書くファンタジー漫画の下町のようなイメージでしたが、今回は学校と言うこともあり、ハリポタの路地を外れた裏道のような雰囲気でしょうか、決してきれいな感じな町を想像できないところがいい、この雰囲気がたまらなく好きです。
そして何より、セロンが前回の学生アレクの息子であり、アレクの恋人であったリチャードを知っているという点でも高ポイントで、彼らのその後が分かります。
「剣の輪舞」は外国の男性同性愛物とあって、どんなもんだろうと思い興味半分で読みましたが、続きを買うほどに面白かったです。前回は二人の関係があっさりしてただけに、今回のようなみっちりとした関係を予想しておらず、少し悶えながら読みました。
日本の小説でもそれなりに読みましたが、外国の文章で読むと新鮮です。
ただ完璧に女性向けかと言うとそうでもなく、物語の重心は歴史にあるので、軽く読み流したい人には手ごわい小説だと思います。
本当に本一冊が分厚いのですごく読み応えがあります。
読み手を選ぶ小説だと思いますが、おススメです。