小学館 パレット文庫 2003年10月
あらすじ
「お覚悟あそばして!」
卯月千代の細い手が叩き込まれると、怪異は瞬く間に解け消えた。
天羽政仁率いる政府直属の極秘組織「怪奇事象研究室」に、「破魔」の力を持ち可憐なこぶしで悪を払う女学生千代、怪異を鋭く見破る「見魔」の力を持つ須磨由弥、怪異を縛する「縛魔」の力を持つ三宮悠太郎の三人は所属していた。
千代が仕事から帰る途中立ち寄ったのは、渡海晴久という強力な力を持つ人物だが、天羽の妹であり同じく強い力を持っていた妻の八重子を妖物に殺され、腑抜けになってしまった男のところだった。
密かに思いを寄せる千代だが、未だに妻に捕らえられている渡海は、その症状を重くするばかりだった。
怪奇事象研究室の最終的な目標は、魔物達が通る隧道を断ち、帝都を魔界から完全に切り離す事だった。
そのための装置「叢雲」は、ほぼ完成していたが、動かすためのエネルギーがなく、8、9月に起こると予測される地震の際に放出されるエネルギーを利用する計画が立てられていた。
その大地震の予測を聞かされた三人に、天羽は事前に皆に話すことを禁じる。それぞれの思いで納得できないが無理やり説き伏せられる。
その頃吉原では妖怪なのでは、と噂される六花という花魁がいた。
須磨には女が人間でないと分かっていたが、情を通じ彼女の元へと通っていた。
須磨は叢雲の計画に一人反対した。
叢雲の現場では謎の怪異が起こっており、怪異を収めようとする千代と三宮だが、雷光という魔界の棟梁の前になす術がなかった。
窮地を救ったのは、六花の子分雪雀だった。
千代たちの力では埒が明かないと、天羽は渡海を呼ぶをこと決める。
荒っぽい方法で渡海を正気づかせた天羽、現場の穴へとやってきた渡海は、やすやすと雷光を追い払った。
須磨は渡海の復帰を聞き、六花を守りながら戦えるかと不安を抱く。
六花の事を知った天羽は渡海を連れ遊郭を訪れた。
渡海は彼女を見たことがあった。六花は妻を殺した妖物だったのだ。
逃れようとする六花を追い詰める天羽、六花は渡海の前に消え去った。
感想
パレット文庫と言う女の子しか読まないような文庫ですが、普通に万人受けする話だと思います。
話の雰囲気が、ちゃんと昔を感じさせ、妖物である六花の人物の書き方が上手い事。
そして天羽と言う男。冷静沈着に見えるが、妹に対して激しいコンプレックスを持つ。それを渡海は気づいているが、彼は天羽の妹の八重子を選びます。
妹のいない今、微妙に屈折している渡海と天羽の関係なんか本当に上手いと思います。
そして主人公が良い所のお嬢様なのに嫌味がなく、好感が持てる。応援したくなる。
主人公(ヒロイン)はそう思えるキャラクターじゃないといけません。
人物一人一人をとっても、性格付けの上手さが出ており、高瀬さんらしい話だと思います。
そして時代設定、この時代にする必然があります、そのさりげなさが良い。
雷光の間の抜けた返答や、女の子がこぶしで殴るところと、シリアスとのバランスもよく、崩れていません。
高瀬さんの中でもおススメしたい1冊です。