冲方丁 小説一覧

天地明察

天地明察

おススメ度 7

(角川) 角川書店 2009年11月

からん、ころん

碁をもって徳川家に仕える“四家”の一つ、安井家の長男である春海は金王八幡で絵馬に書かれた算術に囲まれていた。
多くの問題に対し、解答も書かれている絵馬。それには更に『明察』との返答もあった。

算術を書き写す事に没頭していた春海は、えんという娘に掃除の邪魔だとその場を追いだされるが、武士でもないのに賜ってしまった刀を忘れていた事に気づき慌てて引き返す。

そこで絵馬に書かれていた算術に、先程はなかった回答が書きこまれていた事に気づく。ほんの少しの間に幾門も算術を説いた人物は関。
その人物に強烈に興味を抱くが、春海にも登城の時が迫っていた。

決して碁を嫌いなわけではないが、算術に心を奪われていた春海。
安井家の長男ではあったが、すでに養子として義兄がおり次男三男の気分でいる春海は、父の名である安井算哲の名を名乗らず、保井と名乗る事もあったが、公務以外では渋井春海と名乗っていた。

老中の酒井の碁の相手をする春海。特に碁に熱心でもない酒井に、さほど時世の動きに興味のない春海でも「塵劫は読むか?」「竪亥は?」と聞かれれば酒井が自分に何かさせようとしている事に気づく。
そして「お勤めで打つ御城碁は、好みか?」と聞かれた晴海は「嫌いではありません。しかし退屈です」とつい本音が口をついてしまった。
やがてその返答が春海に生涯をかける勝負への布石となった。

関という人物が気になっていた春海は手掛かりを求め金王八幡で見た絵馬の出題者である村瀬義益の師、磯村吉徳が開いた塾を目指していた。
そこで再びえんと、村瀬に会う事が出来、あの回答者が関考和だと知るが、その関は塾にも時々しか来ないという。

その関と会う事が叶わぬまま、春海には「北極星を見て参れ」と酒井より言い渡される。
ただちに出立の準備に取り掛かる春海は、春海の知る算術を片っ端から盛り込んだ複雑一辺倒の怪問を磯村塾へと置いてきた。関教和殿と添え書きをして。
出立が迫る中、関が設問を説いたかと塾へ向かうが、そこには「,」と「一」の文字が書かれるのみだった。
えんによると関は途中で回答をやめたと言う。疑問に思う春海だったが、後日その疑問は解ける。
春海の設問は答えが出ない「無術」、すなわち回答不能だったのだ。

愚かな設問を慌てて剥がす春海。しかしえんより関が嬉しそうに設問を見ていたと聞かされ、公務より戻ればもう一度設問する事をえんに誓った。

旅は総勢十四名。観測を続けながら旅をする春海は他の者達が江戸より歩測をしながら旅をしていた事を知り、自分も試す羽目になる。
歩測と算術から出す答え、そして実際の天測。
春海の答えはピタリと一致した。まさに明察である。
天意という名の設問に、春海は初めて関という名を知った時の感動が鮮やかに蘇ってきていた。

ここまでで大体小説全体の半分弱になります。人並の読書スピードの私が、パソコンでちょっとした作業をしながら読み終わるまで四時間程かかりました。
メインはこの先になります。

第31回吉川英治文学新人賞、第7回本屋大賞を受賞。第143回直木賞の候補です。
私としてはライトノベル、もしくは「マルドゥック・スクランブル」、もしくはアニメ制作の方というイメージが強い作家さんです。
ライトノベルは読みやすいと思ったのですが、「マルドゥック・スクランブル」はかなり癖がありました。
しかしこの「天地明察」は系統的には「マルドゥック・スクランブル」だと思いますが、格段に読みやすかったです。
渋川春海という人物を存じ上げなかったのですが、知らなくても楽しめる。知ってるからこそ楽しめる。両方の要素を持っていると思います。
碁より算術・天文がメインですが、理系の私としては設問の部分も面白かったです。勿論解けはしませんでしたが。

春海は人物としては薄い印象です。普通の人、良い人という感じです。
ただ普段がそれだけに、二度目の結婚を申し込む時はクスリと笑えます。

アクは強くなく、さらりと読めます。
春海には前面に出ようという性格ではありませんが、何かを“望む”という欲求を持っています。
そしてそれを持っていて、春海の上をいく人々が周りに居ます。算術では関考和、碁では本因坊道策など、春海の一歩も二歩も先を行く才能の持ち主です。
ですが、「暦」という時点では春海しかいない。
このあたりがたまらなく面白かったです。

それらの人物、そして周りの人物が私の先入観のせいか少しライトノベルっぽい感じでした。
何でしょう?性格がそう感じさせるのでしょうか。
しかし小説の中でそれが浮きはしません。逆に読みやすさへと繋がっていると思います。

図形の問題など、絵付きで載っていたり、昔の呼び名等がありそれも面白かったです。

気になっている方は読んで損はないと思います。

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