エレン・カシュナー 小説一覧

吟遊詩人トーマス
[王と最後の魔術師]

(上)(下)
剣の名誉

吟遊詩人トーマス

おススメ度 5

早川書房 ハヤカワ文庫 1992年07月

吟遊詩人のトーマスはある時エルフランドの美しい女王に見初められ、人の世界を離れエルフランドで数年の時を過ごした。
愛人として仕えた女王の元を去る際、“嘘をつけぬ舌”を与えられたトーマスが人の世界に戻ってみると、その世界は7年の時が過ぎていた。
トーマス自身は姿を消した時の若い姿のままであったので、周りの変容に戸惑いを隠せないが、かつての恋人エルスペスと結ばれ、“嘘をつけぬ舌”に苦悩しながらも再び人の世界に溶け込み始める。

読み始めた当初、先にこの方の別の小説を読んだこともあり、ずいぶんと雰囲気が違うその世界に入り込めませんでした。
始まりはとある村の男の一人称で、トーマスという人物が今一つ掴めない人間味のない印象を受けるのですが、次の章でトーマスの一人称に変わると一転人間味が押し寄せてきます。
そしてエルフランドの世界を去り、先ほどの男の妻の一人称になるのですが、ここからは更に俗っぽくなります。
そして最後はトーマスの妻、エルスペスの一人称となります。
ここまで来るとなるほど!と。
始まりの部分はいまいち掴み所がなかったのですが、各々の視点を通して見ればそれぞれの人物の主観が前面に来ていたので掴み所がなかったのかと納得。
それぞれの章(といってもトーマスの一人称は除きますが)では、一人称者が見たトーマスやその他の登場人物の印象であり、章が移り他の一人称者に移ると実際の性格などはやはり違います。
最後になるにつれ、トーマスに近しい人間の一人称になるので、俗っぽくなったのだと思いました。
この辺りは解説にも書いてありますね。私も同意しながら読んでました。

と、最後になると面白かったのですが、小説としては剣の輪舞の世界観の方が私は好きです。
ですが、ファンタジーらしさとしては吟遊詩人トーマスの方がぴったりだと思います。

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王と最後の魔術師 上

おススメ度 8

早川書房 ハヤカワ文庫 2008年06月

歴史学者バージル・セント・クラウドはトレモンティーヌ公爵家の跡継ぎ、セロン・キャンピオンと出会う。バージルはセロンに口説き落とされ、互いに惹かれ合っていく。

母親も優秀な医者であるバージルに、トレモンティーヌ家という公爵の名の影響を心配する同僚達は、バージルにロジャー・クラブとの公開論戦を提案する。

一方、ニコラス・ゲーリング卿は蛇法務官のアーレン卿より、大学に王政復古を願う王党派が大学にいるか探りを入れていた。
スパイとなる人物を探す中、バージルの弟子の一人ヘンリー・フレモントに目をつける。

「剣の輪舞」の60年後の話です。
前回でも剣士と学生の男性同士の恋愛話でしたが、今回も同じで学者と学生の恋愛関係が出てきます。
「剣の輪舞」に比べそれなりの描写があり、前回より恋愛要素が強いです。前作は読み終わった後の感じが「遠山の金さん」を連想させたのですが、その点では今回は男性には読みにくいかもしれません。
ただ話は堅く、どっしりとこの世界の歴史が述べられています。
バージルが淡々と大学の仕事をする中、貴族達の策謀が大学へと向けられます。
そのあたりがとても面白く、男性同士の恋愛だろうが、描写があろうが平気だと言う方は男性でも面白いと思われるのではないでしょうか。
ファンタジーの堅苦しいその世界での過去の歴史や人物が出てくるなど、剣も魔法もない話ですが、こういう話の硬さは大好きです。

前作の「剣の輪舞」は男性が書くファンタジー漫画の下町のようなイメージでしたが、今回は学校と言うこともあり、ハリポタの表道と裏道の間のような雰囲気でしょうか、決してきれいな感じな町を想像できないところがいい、この雰囲気がたまらなく好きです。

そして何より、セロンが前回の学生アレクの息子であり、アレクの恋人であったリチャードを知っているという点でも高ポイントで、彼らのその後が分かります。

「剣の輪舞」は外国の男性同性愛物とあって、どんなもんだろうと思い興味半分で読みましたが、続きを買うほどに面白かったです。前回は二人の関係があっさりしてただけに、今回のようなみっちりとした関係を予想しておらず、少し悶えながら読みました。
日本の小説でもそれなりに読みましたが、外国の文章で読むと新鮮です。
ただ完璧に女性向けかと言うとそうでもなく、物語の重心は歴史にあるので、軽く読み流したい人には手ごわい小説だと思います。

本当に本一冊が分厚いのですごく読み応えがあります。
読み手を選ぶ小説だと思いますが、おススメです。

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王と最後の魔術師 下

おススメ度 8

早川書房 ハヤカワ文庫 2008年06月

互いの立場のため、少しずつバージルとすれ違うセロンは、家名のため結婚を決意するが、それがさらに二人の溝を深める。

公開討論が近づく中、バージルは仕事にのめりこんでいき、そして偶然手に入れた「王の魔術師の書」の呪文を口にする。

公開討論の日、スパイを失った後もバージルやセロンを疑うニコラス・ゲーイングはその討論会に姿を見せる。

面白かった。話は堅く、読み込まないと難しいのですが、だんだんとほころび始めるバージルとセロンの関係、そのあたりのバージルの普通の人っぽさがたまらなく面白い。
バージルはどちらかと言うと丁寧な話し方で、講師と言う聖職のイメージから聖人をイメージしてしまうのですが、セロンが絡むときの俗人っぽさのギャップがすごく良い。
そして「王の魔術師の書」を手にし、セロンの結婚を聞いてからの変わりようと、常識の間で揺れ動いている様、それが少々倒錯気味なイメージを持たせます。

題名の「王と最後の魔術師」、この意味が後半にぐっと来ます、そこからは怒涛の勢いで読みました。

最後まで大学が舞台のメインで、壮大な陰謀が渦巻くことも血が飛び交うような戦いもないのですが、しっかりとした時代の歴史の設定があり、難しいのですがそれが読み応えがある。
そこに入り込んできた貴族の立身出世のための欲望。そのわずかな穴が大学と言う小さな舞台では大きな穴となっていきます。

壮大なファンタジーに慣れた方も、時にはこんな小規模の話もいいのではないかと思います。上下ともに分厚さを感じさせない、夢中で読ませてくれる小説でした。

ところでいつもこういう小説を読む時に思うのですが、何故こうも同性に目が向くのでしょうか?特に閉鎖された学校とか。周りもそれを特別な事と認識せずに流していますが、それは日本と共にお約束なのかと変な共通点を見つけてしまいました。

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剣の名誉

おススメ度 8

早川書房 ハヤカワ文庫 2008年08月

狂公爵といわれるトレモンティーヌ公爵の姪キャザリン・タルバートは、公爵から剣客になるよう屋敷へ招かれた。
公爵が勝手に売り払う土地の問題で生活に困っていたタルバート家の事もあり、キャザリンは公爵の下へと行く事を決意する。

すべてのドレスを処分され、男の格好をし、剣の稽古を続けるキャザリン。
公爵は自分の姪に興味があるのかどうかすらも分からない。

何故こんな事をしなければならないのか疑問を抱くキャザリンだが、ある時叔父の知り合いの剣客と出会う。
殆ど物が見えないその剣客から、伯父がキャザリンに剣を習わすのは、意に染まぬ結婚を強いられた妹が、剣を使えたら無理やり結婚させられる事はなかったと思っていたからだと聞く。
そんな伯父の事がわかる剣客に、その正体が気にかかるキャザリン。ただ分かるのは彼は無論、伯父すら他のどの愛人よりも互いを愛しているという事だった。

彼の元でも剣の修行を続けたキャサリンに、伯父に捨てられたアレクインが公爵に挑戦をたたきつけたてきた。
キャザリンはその初めての決闘で勝利を収める。

キャザリンの友達であるアルテミシアは、三日月法務官のフェリス卿と婚約していたが、結婚前に陵辱され名誉の回復を両親に求めるが、両親は彼女を諌めるばかりでアルテミシアは悲観にくれる。
そんな彼女にキャサリンはフェリス卿に決闘を申し込む事を決意するが、フェリス卿はさらりとかわしてしまう。
公爵の知るところとなったその件は、公爵の助言により、キャザリンは逃げる事のできないゴッドウィン家のパーティーで再度決闘を申し込む。

再び勝利を手にするキャザリンだが、公爵と浅からぬ因縁のあるフェリス卿は公爵にキャザリンとの結婚を申し込む。

公爵はキャザリンのため、その手を汚した。
そして彼を迎えに来たのはあの剣客、リチャード・セント・ヴァイヤーだった。

公爵が去った後、残された手紙には次の公爵が指名されていた。

「剣の輪舞」の18年後、「王と最後の魔術師」の42年前ですね。
「王と最後の魔術師」にもキャザリンは出てきています。その彼女が女ながら、剣を手にした経緯が書かれています。

「王と最後の魔術師」では殆ど名前しか出てこなかったアレク(公爵)とリチャードもしっかり出てきます。
やはりこのリチャードの丁寧な言葉遣いが好きです。最後にアレクを訪ねてきたリチャード、その瞬間本編そっちのけで剣の輪舞に思いを馳せてしまいました。

そして狂公爵と呼ばれるアレク、少々屈折していますが、妹に対する思いなど芯の部分での人間らしさが感じられ、キャザリンを迎えに来た妹ジャニーンとの言い争いも、長年たまっていた思いを喚き合う、そんな姿が狂公爵ではなくただの兄のように見え面白かったです。

キャザリンも最初はドレスを着る事も許されず、男の格好をして剣を学ぶ生活に違和感を覚えますが、女でいたら出来なかった経験。そしてリチャードとの出会いで変わっていきます。
今までは男性の同性愛が軸にあったのですが、剣の名誉は少女の葛藤が軸になります。別に彼女は同性愛に走りません、走りかけはしましたが。公爵が男とも女とも付き合っていたら、少しは感覚が歪みますね。

全体的な展開は剣の輪舞に近いです。若い頃一癖も二癖もあったアレク、大人になりそれに拍車がかかっていますが、キャザリンはそれに飲み込まれる事なく存在を主張しています。
少女が主人公と言う事もあり、他作品よりは万人向けでしょうか。でもどれもおススメです。

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